約 1,206,995 件
https://w.atwiki.jp/rds_th/pages/113.html
rebellion -たいせつなもののために- 原曲 少女秘封倶楽部 Vocal 3L Lyric RD-sounds 概要 蓮メリ曲の一つ。 メリーが消えた後の蓮子の思いを綴った曲 考察 この曲の「嘘」について 考察1 →トラック名が11から正規の7に書き換えられてる おそらく、「廻」に記載されている、意にそぐわぬリターニー(トラック10)後の話しだから? 考察2 「密」配布による新たな考察 →蓮メリ自体がお互いに利用しているだけのような描写 そもそも、蓮子が終盤にかけての大団円並みの感情を出すのは違和感? 小ネタ 小ネタ1 隣の歌詞カードである「サナエさん」の一部写真がこちらのほうまで飛び出ている 意図的にそうしているのかは分からないが、廻のヒメゴトクラブのトラックナンバーがEXになっていて、反対にするとX3(13)になる。 そういう意味で嘘トラックナンバーを11にして、話を挟めるようにしたのでは?とも考えられる コメント欄 蓮子が終盤にかけての大団円並みの感情を出すのは違和感? -- 名無しさん (2020-05-15 04 24 19) ミスった、ここ違和感あるかな…別ルートだと思ってたんだけど蓮メリチュッチュを考えたらこのくらい蓮子が熱く思っていてもいいのでは -- 名無しさん (2020-05-15 04 26 20) 東方優駿録で2012年のベストアレンジ曲に選ばれる程の傑作 -- 名無しさん (2020-06-04 02 59 11) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/448.html
「特別な夜だから」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY 今夜はクリスマスイブ。桃園家でのクローバーのクリスマスパーティーは 大盛況の内に幕を閉じた。 因みに桃園夫妻は親孝行な娘達の画策…もとい心暖まる進言より、 ラブが産まれて以来初めての二人きりのクリスマスデートに出掛けている。 そんなワケで、四人でのパーティーは大人の目を気にする事なく 適度にハメを外して楽しんだ。 そして友達として思う存分楽しんだ後は、今夜は特別な夜。 恋人達の時間に突入するべく、まだ名残惜しさを引きずりながらも解散。 後はそれぞれのカップルに別れての聖夜が始まる……。 はずだったのだが。 「せつなっ!ちょっと待った………って、行っちゃったよ…。」 ラブの止める声も届かない内に、アカルンで飛んで行ってしまったせつな。 恐らく、今あの二人は忘れ物どころじゃないと思うんだけど……。 (あーあ……。知らないよ…。) と、思った次の瞬間、 「きゃぁああぁーー!!」 「!!!」 ガシャガシャガシャー!と言う派手な音と共に、せつながまだ片付けの 済んでないダイニングテーブルの上に落ちて来た。 一応使用済みの食器なんかは洗ったが、テーブルの上には ラブが明日食べようと残していたケーキの残りが置いてあったワケで……。 モロにケーキの上に落ち、足をクリームまみれにして呆然するせつな。 そのせつなを見て、これまた呆然とするラブ。 我に返り、とっさにテーブルから降りようとするせつな。 これまた、一瞬遅れて我に返ったラブが慌てて制する。 「待った!降りない!降りちゃダメ!!降りるな!!被害が広がる!!」 せつなはストップモーションの様にピタリと静止する。 ラブはせつなに尻餅を付かせるような格好にして、被害状況を調べる。 白い脛と内腿、ラブが頼み込んで着てもらったミニスカサンタの 衣装のスカートにもクリームが付いている。 取り敢えず、下敷きになっている皿やら回りを綺麗にしていると…… 「あの……。ゴメン……。自分でやるから…」 「うーごーかーなーいー!じっとしてる!ホラ、これも脱いで。」 「あっ!ちょっと!」 「ここで全部始末しちゃった方が早い。 もーう!ケーキ明日のお楽しみだったのに。」 しゅんとするせつなから赤い衣装を脱がせ、あっという間に下着姿に してしまった。 「あたしが良いって言うまで動いちゃだめ!」 ラブが服を始末したり飛び散ったクリームを拭いたりしている間、 せつなは下着だけでダイニングテーブルの上に捨て置かれると言う 放置プレイに晒される事になった。 かなり……シュールな光景だ。 「さて、これで後はせつなだけだね。」 ホッとしてせつながテーブルから降りようとした瞬間…… ぺろり! ラブがせつなの足に付いたクリームを舐めた。 「やっ!ラブっ!」 「だーかーらー、動かないの。」 「や、やめて…。汚いわ……」 「もったいないよ!このケーキ美味しかったのに!」 ペロペロとクリームを舐め、スポンジの欠片をこそげ取っていくラブの赤い舌。 それが内腿に侵入して来ると、せつなの皮膚の下にくすぐったさとは違う、 むず痒い感覚が産まれてくる。 せつなの体がカァっと火照り、冷たいクリームが緩んで白い肌を流れる。 ラブの熱い舌が濡れたビロードの様に這い回り、その感覚に 体の奥から熱が降りてくる。 「ね、ねぇ、もういいでしょ?洗ってくるから…」 放して?そう言って足を掴んだラブからせつなが逃れようとする。 するとラブは上目遣いにせつなを見つめ…… 「ねぇ、せつな。何見たの?」 途端にただでさえ熱くなっていたせつなの体温が急上昇した。 薄暗がりに浮かび上がる美希の白い体。焦点の定まらぬトロンとした瞳。 そんな美希をこの上なく愛しそうに髪を梳き、微笑む祈里。 祈里の微笑みは慈母の穏やかさを湛えているのに、何故か 瞳に猛禽類のような獰猛な光がちらついているように思えた。 その爪で艶かしい獲物に食らい付き、そして捕えられているはずの獲物は どこか恍惚の表情を浮かべている。 白い喉笛に牙が突き立てられるのを、今か今かと待ち焦がれているような。 わたしも、あんな顔をいつもしているのだろうか……。 そして、ラブも………。 「い、言えないわ……。そんな…!」 「ふうん……。つまり、言えないような事、してたんだ?」 「……!!ーーあっ、あんっ!あぁっっ!」 ラブが下着の上からせつなの秘部を甘噛みする。 布越しに、尖った快感の集中する突起を歯でしごく。 横から指を入れ、濡れ具合を確かめる様に覗き込んだ。 「あっ!イヤっ……見ないで……」 「今さら恥ずかしがらなくても。 せつながエッチなコだって事くらい知ってるよ。」 「やっ……!やぁあん!!」 下着の中でくりくりと突起を捏ね回す。 すぐには昂らないように、桃色の真珠を包む包皮の上から揉み込む。 「ねぇ、せつなは気が付いた?」 「ーーんっ、んぅ……?」 「美希たん、トナカイさんの下、何も着てなかったんだよ。」 「ーー?ーえっ?」 「ブッキーがねぇ、やたら美希たんのお尻のあたりチラチラ見てたの。 何でかと思ったらねぇ…!」 少し破れてたんだ。そこからね…… そりゃ、あの格好で来て帰るしかないよ。 「まったく、あの二人もよくやるよねぇ。 人んち来るのに何考えてんだか。」 下着の中の悪戯を止める事なく、ラブはせつなの様子を窺う。 上に手を伸ばし、ブラを手探りでずらしながらせつなの耳元で囁く。 「あたしのお願いなんて可愛いもんでしょ?」 今日せつなが着けているのは、赤いレースが繊細なブラとショーツの一揃い。 乳房を包む部分は殆ど透けそうなレースのみ。 かっちりとしたワイヤーの入らない、自然な丸みが出る作りだ。 下も同じく淡い茂みを辛うじて隠す程度の布を細いリボンが繋いでいる。 殆ど下着としての用をなさない、扇情的で見る者を挑発する為だけの物だ。 「今夜は特別な夜だから。」と、せつなを拝み倒して付けて貰った。 全身を桜色に染めてモジモジと俯くせつなは、 その場で食べてしまいたいほど可愛くいやらしかった。 今まで美希と祈里の目を盗んで、物陰でスカートを捲ったり、 胸元を覗き込むだけで我慢していたんだ。 (脱がせちゃうの惜しいけどね………。) 「ほどくよ…?」 乳房を荒々しく揉みしだき、しこり立った乳首の先端に爪を立てる。 耳たぶに舌を這わせながら、シュル……と 少女の最後の砦が暴かれる。 「…………っあ…………」 膝に手を掛けると弱々しい抵抗の後、驚くほどすんなりと せつなの恥じらいは武装解除してしまった。 ふっくらと充血した花弁がほころぶように 花開き、その中心にたっぷりと蜜を湛えていた。 その上に息づく蕾は快感への期待に震え、 初々しい桃色の膨らみを覗かせている。 「可愛い……。ねぇ、食べちゃってもイイ?」 ラブは腿に一掬い残しておいたクリームを、その蕾に塗り付ける。 「はぁっ、やっ…あ……!」 「ふふっ……、いただきまぁす。」 パクリ!と口に含み、ねぶり回しながら苛め抜く。 硬く、柔らかく、せつなの一番感じる部分が意地悪な舌で好き放題になぶられる。 羞恥と快感がせめぎ合い、せつなの内側から心身を炙る。 泣きたくなるほどの愉悦が駆け巡り、羞恥を快感が溶かして行く。 「あんっ、あんっ、あんっ、あぁぁ、はぁ…、いっ…んあっ、あっ……」 涙を飛ばしながら激しく頭を振り、ラブの舌が突起を捉える度に せつなはビクンっビクンっと腰を跳ねさせる。 ふるふると小刻みに走る震えが、せつなの絶頂が近い事を知らせてきた。 つつ……、と愛液と唾液の混じった糸を引きながら、ラブの舌と せつなの快楽が離れる。 「どして?」そう目で訴えながら、 せつなはハァ、ハァ…と大きく胸を上下させる。 天国へ登り詰める寸前でお預けされ、行き場を失った欲望が 子宮を切なく締め付ける。 「せつな、これからどうしたい?」 ラブは両の乳首を摘まみ上げ、指の腹で敏感な先端を摩擦する。 左右交互に軽く引っ張っては放し、チロチロと舌先でくすぐり、 時々強く吸いつきながら甘噛みする。 「はぁっ…んぅ、あ…っ…ぁう…ンッ!」 せつなはラブの頭を掻き抱きながら身を捩る。 乳首への甘美な刺激が、ますます足の間に火を灯し、悦びを教え込まれた 幼さを残した体を責め苛む。 「ねぇ、言って?せつな。次はどうして欲しい?どんな風にイキたい?」 せつなの好きなように、してあげるから。 「………ーっ、な、中にも、…欲し、いの……」 「何を?」 「……ら、らぶの指、………お願い、奥…まで……」 ラブはうっとりと笑み崩れ、せつなの唇に貪りつく。 「ンッ…んぅぅ…、らぶぅ…、ら…ぶ」 甘く蕩けた声でせつながすがり付く。 乳首を弄んでいた指が脇腹から鼠径部を撫で、濡れそぼった 花弁を掻き分ける。 「んっ!ふぅっ……!ぅんんっ!」 唇を塞がれたまま、せつなが指を誘い込もうと腰を揺らす。 ラブは指を2本、一気に奥まで貫きながら掻き回し始める。 「ーーふあっっ!はぁああぁ…、あっ!あっ!」 「気持ちイイとこ、全部触って欲しいんでしょ? せつなは欲張りだね!」 ぐちゅっ!ぐちゅっ!とキツくすぼまった秘孔を引っ掻くように 中指と人差し指を抜き差しする。 放って置かれた屹立仕切った蕾を摘まんで捻る。 舌は乳首を舐め回しながら、唇で乳房に赤い印を刻んでいく。 「あーーっ!あぁぁ…んっんっんっ!!ダメっ、いゃあぁ!」 「イイの?せつなっ、気持ちイイ?」 「ああっ、ああっ、もうっダメっ!ダメ…あっ、ーーー……っ!!」 ガタガタとテーブルが鳴り、せつなが大きく仰け反る。 緊張を繰り返した肢体が、やがてしどけなくラブにしなだれかかる。 「………どして?……どして、こんな……っーー!」ラブの肩口に額を擦り付け、せつなが涙混じりの声を漏らす。 「んー、ゴメンね…。そんなにイヤだった?」 「……イヤじゃ…ない、けど…。」 「今夜は特別な夜だからって事で、許して?」 「そんなに、特別なの……?」 「そーだよ。」 だから美希も普段なら絶対しないような事、してたでしょ? 大事な人を喜ばせたいから。 「ね、せつな。部屋、行こうか? あたしまだまだ、せつなを気持ち良くしたい。」 抱き締めたせつなが、ふるっ、と震える。 「アカルン……、私の部屋へ……。」 暗く冷えきった部屋のベッドは火照った体の熱を容赦無く奪う。 でも大丈夫。すぐに温かくなるから。 だって今夜は特別な夜。恋人達の時間は、まだ始まったばかり。 ~おまけ~ 「ねぇ~、美希ちゃん。機嫌直してよぅ。イイじゃない、 真っ最中じゃなかったんだし。一瞬だったし。」 「祈里は服着てたじゃない!それに、それに…バッチリ裸は見られた!」 「まあまあ、きっとせつなちゃんもラブちゃんにお仕置きされてるから。」 「何でそんな事分かるのよ…?」 「うふふー、見ちゃったんだ。せつなちゃんね、 すっごいエッチなパンツ穿いてた。」 「……いつ、見たの?」 「キッチンでね、ラブちゃん達がケーキの用意してたでしょ? ラブちゃん、せつなちゃんのスカート捲っておしり撫で回してた。」 「……………。」 「今度会ったらその事からかってあげればいいんじゃない?」 「………。」 「だからね?美希ちゃん、せっかくの夜なんだからさ……。」 「ーーーっあんっ!祈里ぃ……。」 「美希ちゃん……、可愛い……。」 後日、馬鹿正直にその事を突っ込んだ美希。 しかし、逆に裸トナカイを突っ込み返され、盛大な自爆を遂げた。 美祈25は、せつなが見た二人のお話(R18)
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/584.html
四葉になるとき ~第3章:癒せ!祈りのハーモニー~ Episode14:絆 まばゆい光を放つ巨大な水晶が、夢のように霧消する。街路樹を片っ端から取り込んで、不気味な大樹となったソレワターセも、一緒に跡形もなく消え失せた。 まだ厳しい顔つきで佇む四人に、誇らしげに駆け寄るタルト。 「よくやったで~、プリキュアの皆はん!」 「キュア~!」 タルトの背中で、シフォンも嬉しそうに両手を上げる。その明るい笑顔に、パッションの顔がゆっくりとほころんだ。 「良かった・・・。」 途端に彼女の姿が淡い光に包まれて、パッションからせつなへと戻る。 「え・・・せつな?」 「せつなちゃん?」 それを見て、ベリーとパインが揃っていぶかしげな声を上げた。 慎重なせつなは、四人の中で決まって最後に変身を解く。それがどうして今日に限って――二人がそう思ったとき、今度はシフォンに歩み寄ろうとしたせつなの膝が、ガクンと崩れかけた。 「せつなっ!」 ピーチが慌てて彼女を抱き留める。 「せつな、大丈夫!?どこか怪我したのっ!?」 両手でギュッと肩を掴み、揺さぶらんばかりに尋ねるピーチに、自分でも驚いたような表情をしていたせつなが、ふっと照れ臭そうな笑みを返した。 「・・・痛いわよ、ラブ。」 「あ、ゴメン!」 言うが早いか、ピーチがラブの姿に戻る。確かに、プリキュアの力で本気で肩を掴んでしまったのは失敗だった。申し訳なさそうにうなだれるラブの肩に、今度はせつながそっと手を置く。 「ごめんなさい、心配かけて。ちょっと・・・気が抜けちゃったみたい。もう大丈夫。」 「せつな、おばさんのことが心配で、朝から気が気じゃなかったもんね。」 「うん。無事に見つかって、本当に良かった。」 同じく変身を解いてそう笑いかける美希と祈里を、ラブはきょとんとした顔で見つめた。 話によれば、今日は朝から三人で、あゆみを探して四つ葉町を走り回っていたのだという。それを聞いたラブの目から、大粒の涙がポロンとこぼれた。 「せつな・・・せつな、ゴメン。本当にゴメン!」 「ラブったら。もう気にしないでって言ったでしょ?」 子供のように縋り付いて泣きじゃくるラブを抱きしめて、せつなはその背中を、優しく撫で続けたのだった。 四つ葉になるとき ~第3章:癒せ!祈りのハーモニー~ Episode14:絆 「あら、ブッキー。」 犬の散歩の途中で、街角にある大型スクリーンに見入っていた祈里は、聞き慣れた少し低めの声に、笑顔で振り向いた。 せつなが足早に近付いてニコリと笑うと、祈里と並んでスクリーンを見上げる。 画面の中で躍動しているのは、トリニティ。テレビの録画映像だ。実際は、彼女たちは今は数日間のミニライブツアーに出かけていて、日曜日の今日も、ダンスレッスンはお休みだった。 「せつなちゃん、今日はラブちゃんと一緒じゃないのね。お買い物?」 せつなが手に持っている、まだぺちゃんこの買い物袋を見て、祈里が尋ねる。 「ええ。ラブは、学校の委員の仕事があるって言ってたわ。私は・・・その・・・お母さんに、お使いを頼まれて。」 そう言って、少し照れ臭そうに俯くせつなとは対照的に、祈里はぱぁっとその顔を輝かせた。 「せつなちゃん!おばさんのこと、お母さん、って呼ぶようになったんだ!」 いつもながらストレートな祈里の言葉に、上気したせつなの頬が、さらに赤みを増す。 「うん。昨日から・・・なんだけど。」 たどたどしく一部始終を話すせつなの言葉を、祈里は相槌を打ちながら、嬉しく聞いた。 昨日は、ソレワターセと入れ替わってしまった本物のあゆみを探して、美希と三人で四つ葉町を駆け回った日だった。 あのときの、せつなの思い詰めた顔。そして、あゆみを見つけたときの心からホッとした表情を思い出して、祈里はじわりと涙が浮かんできた目を、慌ててしばたく。 「良かったね。おめでとう、せつなちゃん。」 「あ・・・ありがとう。」 祈里の言葉に、せつなが耳まで真っ赤になる。だが、祈里の次の言葉を聞くと、その目が少しうろたえたように、せわしなく動いた。 「ホントに良かった。おばさんも、きっと凄く喜んだよね。」 「せつなちゃん、どうかした?」 突然押し黙ったせつなに、祈里が心配そうな視線を向ける。その言葉に押されるように、せつなは顔を上げた。 「ねぇ、ブッキー。ひとつ訊いてもいい?」 「うん・・・じゃあ、ちょっと座ろっか。」 祈里が、連れている小型犬の頭を撫でながら、歩道沿いのベンチに座る。せつなはその隣に腰を下ろすと、少しためらってから、ゆっくりと口を開いた。 「昨日、私が“お母さん”って呼んだときにね。お母さん、私に“ありがとう”って言ってくれたの。」 「そう。やっぱりおばさん、とっても嬉しかったのね。」 ニコニコと、それが当然、と言わんばかりの祈里の反応に、せつなは再び、困ったように視線を動かす。 「嬉しかったから・・・なのかしら。家族にしてもらったのも、プレゼントをもらったのも私の方なのに、お礼を言われたのが、何だか不思議で・・・。」 嬉しそうな、でも明らかに戸惑っているような表情で、せつなは呟く。そんな彼女に、祈里は相変わらず笑顔のまま、穏やかな口調で即答した。 「そりゃあ、せつなちゃんに“お母さん”って呼んでもらえて初めて、おばさんはせつなちゃんの、ホントのお母さんになれたんだもの。」 「・・・えっ?」 驚いたように聞き返すせつなに、今度は祈里が、少し照れ臭そうな顔になる。 「わたしたちだって、そうでしょう?一方的じゃなくて、お互いに大切な仲間だと思っているから、ホントの仲間でいられる。家族だって、おんなじだと思うよ。」 「あ・・・。」 せつなの頬が、再び赤く染まる。 私の大事な娘――あゆみにそう言われたとき、胸がつまって声が出せないような嬉しさの中で、せつなはふいに思い出したのだ。修学旅行で踊ったカチャーシーと、その話をしてくれたお婆さんの笑顔を。 この震えるような喜びを、幸せを、かき混ぜたい。繋げたい。そう思ったとき、ずっと心の中にあったあの言葉が、喉元にせり上がって来た。 もっとも、実際にそれを口にするには、勇気を振り絞らなくてはならなかったけれど。 (そうか。幸せを繋げていくには――誰かと繋がっていくには、ただ手を握られているだけではダメなのね。ちゃんと握手をしないと。) チクリと胸が痛む。握手をした相手のせいで、不幸になることだってあるのではないか。現に、自分と関わったりしなければ、あゆみは昨日のような目に遭うことはなかったのだから。 だからこそ、大切な人たちを、何としてでも守りたい。せつなはその誓いを新たにしながら、大切な仲間の顔を見つめて、はにかんだような笑顔を見せた。 相変わらずニコニコとその様子を見ていた祈里が、何かを思いついたように、あ、と声を上げる。 「あのね、せつなちゃん。とっても簡単で、喜ばれる親孝行があるの。お母さんに、ありがとうって伝えたいときや、二人だけで話がしたいとき、きっと役に立つわ。知りたい?」 大きな目をキラキラさせて、嬉しそうにこちらを覗き込んでくる祈里に、せつなは少しためらいながら、それでもしっかりと頷いてみせたのだった。 ☆ 「いらっしゃいませ~。まあ、ラブちゃん。」 店の掃除をしていたレミは、入って来たラブの顔を見て、密かに首をかしげた。 いつもは元気一杯で飛び込むように入ってくるラブが、何だか今日は、少し沈んでいるように見えたからだ。 (何かあったのね。こういう分かりやすいところは、あゆみさんそっくり。) レミはそう思いながら、わざと茶目っ気たっぷりに、うふっ、と肩をすくめて笑って見せた。 「嬉しいわぁ、ラブちゃん。今日もヘアモデルになりに来てくれたのぉ?」 「ナハハ~、おばさん、今日はちょっと・・・」 力なく笑うラブとレミの間に、奥から現れた美希が割って入る。 「ちょっと、ママ!ラブは、今日はアタシに用があって来たの。だから、勝手にヘアモデルなんてやらせないでよね。」 「あら、そうなのぉ?残念だわぁ。」 カタッと眉を下げておどけてみせるレミに、ラブは小さく、あはは・・・と笑う。その顔を見て、レミが悪戯っぽくウィンクすると同時に、美希がダメを押すように、ビシッと人差し指を立てた。 「それからママ、今日は二人で大事な話をするんだから、用があるときは、必ずノックしてよ?」 「はいはい、わかりました。」 (まぁ、ラブちゃんには美希が付いてるもんね。父親に似て苦労性だけど、あれでなかなか頼りにもなるし。) レミは、ラブの背中を押すようにして部屋へ引き上げる娘を、いつものおっとりとした笑顔で見送った。 「それで?アタシに訊きたいことって、何?」 紅茶とクッキーを用意して、美希はラブと向かい合う。考えてみれば、美希とラブがこうして二人っきりで話すのは、最近では珍しいことだ。せつなに何て言って家を出てきたんだろう、と美希はちらりと思いを巡らせる。 ラブが、うん・・・と口ごもりながら、紅茶を一口啜る。 「ひょっとして、昨日のこと?」 「たはは~、バレてたか。」 いつものように笑って頭を掻いてから、ラブは上目づかいに美希を見つめた。 「ねぇ、美希たん。昨日、お母さんを探してくれたのって、せつなに頼まれたの?それとも、たまたまお母さんを探しているせつなを見かけた、とか?」 「何を気にしてるのかと思ったら、そのこと?」 美希が柔らかく、ラブに微笑みかける。 「せつなから電話を貰ったのよ。ソレワターセがおばさんに成り済ましてシフォンを狙ってる、本物のおばさんを探したいから、手を貸して、って。」 美希の説明に、ラブが俯いて、小さく溜息をつく。それを見て、美希の目の光が一層柔らかくなった。 「でもね、ラブ。アタシ、せつながラブにおばさんのことを言わなかった・・・いや、言えなかった気持ち、分かる気がするよ。そりゃあ、ラブは言って欲しかったって思うかもしれないけどさ。でも、せつなにしてみれば・・・」 「ううん、美希たん。そのことじゃないの。」 ゆっくりと顔を上げたラブの表情を見て、美希は思わず口をつぐむ。 幼い頃から見慣れている落ち込んだときの顔かと思いきや、その表情は、何だか嬉しそうで、それでいて寂しげで、今まで美希が見たことがないような、大人びた顔だった。 「あたし、一昨日の晩に、せつなに酷いこと言っちゃってさ・・・。おまけに、せつなが言い訳しようとしたのを、聞きもしなかったの。」 ラブは、母のフリをしたソレワターセとせつなとのやり取りを、美希に語る。途中から、美希の目がソレワターセへの怒りで吊り上がったが、彼女は何も言わなかった。 「あたしね、美希たん。せつなが本物のお母さんを連れて帰って来たとき、あたしがせつなを追い詰めたんだって、すっごく後悔したの。 せつなは、あたしに話を聞いてもらえなくて、もう本物のお母さんを探すしかなくなって、たった一人で駆け回ってたんじゃないか、って。 でもせつな、美希たんとブッキーを、ちゃあんと頼ってくれてたんだよね。そのことを、どうしても確かめたかったの。」 そう言って、ニコリと笑うラブの目から、すーっと一筋の涙が頬を伝った。 「あれ?おかしいな。あたし、なんで泣いてるんだろ。せつなが一人じゃなかったってわかって、凄く安心したはずなのに。」 美希がすっと席を立つ。そして、ティッシュの箱を持って戻ってくると、クッキーの皿と一緒に、ラブの目の前に押しやった。 「・・・ありがとう。」 ラブがティッシュで鼻をかみ、クッキーを一枚頬張って、美味しい、と呟く。その様子を見て、美希は少し安心したように、小さく息をついた。 「ねぇ、ラブ。」 ラブが落ち着くのを待って、美希は静かに話し始める。 「せつなは、ニセモノのおばさんに向かって、「あなたはお母さんなんかじゃない」って、そう言ったのよね?」 「うん。」 ラブが力強く頷く。忘れようったって、忘れられるものじゃない。昨日と今日では全然意味合いが違うけれど、ラブにとっては、どちらの意味でも苦く鮮明な記憶だ。 しかし美希は、ラブの答えを聞いて、何だか嬉しそうに微笑んだ。 「そうだとしたら、せつなはもっと前から、おばさんのことをお母さんだと思っていたんじゃない?ただ、そう呼ぶ勇気がなかなか出せなかっただけで。」 「どういうこと?」 首をかしげるラブに、美希はオホン、とわざとらしく咳払いをしてみせる。 「いい?せつなは、相手がニセモノだって知ってたのよ?そのニセモノに向かって、「あなたはお母さんじゃない」って言ったの。ということは、本物のおばさんこそお母さんだ、って、そう言ってることにならない?」 「あ・・・そっか。そういうことだったんだ。」 ラブの顔が、また泣き笑いのような表情に変わる。美希は、ラブの両肩に手を置いて、その潤んだ瞳にしっかりと自分の視線を合わせた。 「せつなは、もうとっくに一人じゃないわ。アタシたちとも、おじさんやおばさんとも、しっかりと繋がってる。 もしまたあの子が無茶をして、自分を犠牲にしようとしたり、一人で頑張り過ぎるようなことがあったら、そのときは・・・」 「あたしたちが、伝えればいいんだね?一人じゃないよ、って。」 そう力強く答えるラブの目に、もう涙は無かった。 「美希たん。」 「なぁに?」 「今日の美希たん・・・何だか優しいね。」 「ちょっと、何よそれ。アタシだって、そうしょっちゅう心を鬼にしてたまるもんですか。」 美希のふくれっ面を間近で眺めて、ラブがぷっと吹き出す。美希も堪え切れなくなったように、笑い出した。 二人の密やかな笑い声は、まるで季節外れの五月雨のように、あたたかく、優しく、蒼乃家の二階に響いた。 ☆ その日の夕方。 家に帰り、リビングに入ろうとしたラブは、かすかに聞こえる話し声に気付いて、そっと耳をそばだてた。 「・・・お母さん。」 「なぁに?せっちゃん。」 「これくらい力を入れても・・・痛くない?」 「ええ、気持ちいいわ。上手ね、せっちゃん。」 そろりと扉を開けると、ソファに座ったあゆみの後ろに立つ、せつなの後ろ姿が目に入った。その細い両手は、あゆみの肩を優しくもみほぐしている。 西日を浴びて浮かび上がる二人の姿が、何だかぼやけて見えて、ラブは慌てて乱暴に目をこすった。 気配に気づいたせつなが、そっとこちらを振り返る。ラブは、その赤い瞳に今日一番の笑顔を向けながら、元気よく言った。 「ただいま!」 「お帰りなさい。」 あゆみとせつなの声がぴたりと揃って、あたたかく、ラブを迎えた。 ~終~ ~第3章:癒せ!祈りのハーモニー~ Episode15:星空にあるものへ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/394.html
ホワイト・クリスマス~Five years after~/一六◆6/pMjwqUTk ――星が少し出ているだけで、こんな凍えそうな夜でも、何だかあったかく感じるんだね。 ベランダで空を眺めていたラブは、ポツリポツリと空を飾る星の光を、少しでも曇らせまいとでもするように、下を向いてはぁ~っと白い息を吐き出した。 今日はクリスマス・イブ。明日は美希と祈里とその家族を招いて、恒例のクリスマス・パーティーだ。家族ぐるみで気心の知れた友達同士。きっと今年も、時の経つのを忘れるような、賑やかで楽しいパーティーになることだろう。 打って変わってイブの今日は、家族水入らずのときを静かに過ごすのが、これまたここ数年の桃園家の恒例になっていた。 ささやかだけど心のこもったプレゼントを家族で交換し、明日のご馳走を考えて、さっぱりめの夕ご飯をみんなで頂く。 今年のイブの夕食は、湯豆腐だった。最近家庭菜園を始めた駄菓子屋のおばあちゃんにもらったネギが甘くて美味しくて、ついつい飲み過ぎた圭太郎は、「明日があるのに・・・」と、あゆみのお小言を食らっていた。その情けなさそうな顔を思い出して、ラブは一人でクスリと笑った。 笑顔がこぼれる、あたたかな食卓。その当たり前の光景のありがたさが身にしみて、何としてでも守りたいと思ったのは、五年前の今日だった。 両親が身を切る様にして口にした「行きなさい」という言葉と、渾身の祈りを込めた眼差し。それを背に決戦の地へと赴いたことが、昨日のことのように思い出される。 ――考えてみれば、あたしたちも親不孝したもんだよね・・・。 ラブはもう一度はぁ~っと息を吐いてから、つぶやくような声で口ずさむ。 「夕ご飯、夕ご飯。みんなでおうちで夕ごは~ん。」 「風邪ひくわよ、ラブ。」 ふわり、と肩にかかる柔らかな布地の感触と、それよりもっと柔らかな声に、ラブはゆっくりと振り返った。 ホワイト・クリスマス ~ Five years after ~ 自分もコートを着込んだせつなが、ラブの隣りに立って空を見上げる。薄暗いベランダではっきりとは見えなくても、その顔が穏やかな笑みを湛えていることが、ラブにはわかっていた。 ニコリと笑って、せつなの艶やかな黒髪に手を伸ばす。 「それにしてもさぁ。せつな、随分思い切ったよね。」 「そう?あんまり長くても、何かと邪魔だし・・・。でも傍から見たら、勿体ないって思うのかしら。美希のお母様にも、ここまで伸ばしたのに、って言われたわ。」 「そりゃあ、伸びるのに時間がかかるし・・・それにせつなの髪、すっごく綺麗だし。」 せつなはそれには答えず、再び暗い空へと目を向ける。 今日、せつなは腰まで伸びた豊かな髪をバッサリと切って、肩より少し下くらいまでの、セミロングにしたのだった。 「せつながそんな頭にしてるとさ。なんか、あの頃のこと思い出しちゃうね。」 「私も思い出すわ。ラブのさっきの歌、聞いてたら。」 せつなが桃園家に迎えられた、あの夏の日。一緒に坂道を駆け下りながら、ラブが高らかに歌ったあの歌は、せつなにとって、家族を表す原点と言ってもいい歌だ。 「あの歌ね。元々は、あたしがちっちゃい頃、お母さんがデタラメに歌った歌なんだ。お母さんが帰ってくるのが遅くて、あたしがむくれてたとき、お母さんがあの歌を歌いながら、よく大急ぎで台所に突進してたの。そのうちあたしも覚えちゃって、歌いながら、お母さんを後ろから追い立てたりしてたっけ。」 ラブは少し遠い目になる。小さなラブに背中を押され、はいはい、と言いながら台所に入っていくあゆみの姿が容易に想像できて、せつなはクスクスと笑った。 「そう言えば、お母さんもよくあの歌、歌ってるわよね。」 「最近じゃ、せつなもね~。」 もうっ!と横目でにらむせつなに、ラブはニンマリと笑い返す。 「それで?どうして突然、髪を切ろうなんて思ったの?そろそろ教えてくれたっていいでしょう?」 「別に、大したことじゃないんだけど。」 せつなはうつむいて、肩の上でカールした毛先に手をやる。 「年が明けたら、新しいスタートだから・・・。だから、とにかく精一杯頑張ろうって心に決めていた、あの頃の気持ちを思い出そうと思ったの。」 そう言うと、せつなは困った顔で、ラブの方を振り返った。 「ええっと、こういうのって、『白紙に戻る』って言うんだったかしら。なんか違う気がするんだけど。」 「???」 突然のせつなの問いかけに、ラブは一瞬きょとんとしてから、ぷっと吹き出した。 「せつな、それを言うなら『初心に戻る』だよ。白紙に戻ったらダメでしょ!」 アハハ・・・と楽しそうに笑い転げるラブを見て、せつなは少し怒ったように、少し恥ずかしそうに、知らないっ!とそっぽを向く。暗くてよく見えないけれど、きっとその頬は、朱に染まっているはずだ。 ラブは、ベランダの手すりに置かれたせつなの手に自分の手を重ねて、その色白の顔を覗き込んだ。 「せ~つなっ。ゴメン、怒った?」 「もう、そんなに笑うことないじゃない。」 「ゴメンってば。だって、あたしがせつなに教えるなんて、いつもとあべこべなんだもん。こんな簡単な言い回しを間違えるなんてさ。せつな・・・ラビリンスに長く居過ぎだよ。」 ラブの声の調子が変わったのに気付いて、今度はせつなの手が、ラブの手に重なる。ラブは上目づかいにせつなの顔を見て、恥ずかしそうに笑った。 あの最終決戦の後、ラビリンスに戻ったせつな。 そのまま全く会えずに一年が過ぎ、やがて年に数回は四つ葉町に戻ってくるようになり・・・そして半年ほど前から、せつなは再び、桃園家で暮らし始めた。 年が明けたら、せつなはラブと一緒に、トリニティの前座として、初めてライブのステージに立つことになっている。 美希が若手実力派モデルとして頭角を現し、祈里が獣医を目指して勉学にいそしむ中、ラブはずっと一人で、ミユキのレッスンを受けてきた。 四つ葉町に戻って来たとき、せつなは迷わず、それに合流した。そして、ラブと一緒にダンサーの夢を追う道を選んだのだ。 「でも良かった、せつなの『精一杯』が聞けて。」 「ラブ、からかってるの?」 「違う違う!せつなのあの台詞を聞くとさ、あたしも頑張れるような気がするんだ。これからもっともっと練習して、ステップももっとたくさん覚えて、トリニティに負けないくらい、みんなを幸せにできるダンサーになるんだ、って。」 ラブは真剣な目をしてそう言うと、もう一方の手で、ギュッとせつなの手を握った。 「せつな、一緒に頑張ろうね。一緒に本気の幸せ、ゲットしようねっ!」 「ええ。精一杯頑張るわ!」 あの頃と同じ口癖を言って、二人で笑い合う。 と、その時・・・。 重ねられた二人の手の上に、白く密やかな空の花がふわりと舞い降りて、触れると同時に、すっとはかなく消えた。 「えっ・・・雪だよ、せつな!」 見つめる暗い空の彼方から、白いおぼろな影が現れて、後から後からその数を増す。 イルミネーション輝く家々の屋根に、ひっそりと静まった庭の木々に、まだ人々の声で賑やかな商店街の通りに、音も無く降り注ぐ。 「うわぁ、凄いね。明日はホワイト・クリスマスだよ。」 「ホントね。私、雪の日のクリスマスなんて初めて。」 「あたしも!」 「え?・・・ラブも?」 せつなは驚いた眼差しで、ラブの顔をまじまじと見つめた。 「・・・ラブはそんなこと、とっくに知ってるもんだと思ってたわ。」 「そーんな何もかも知ってるワケないじゃん。あたしだって、まだ十九歳なんだから!」 なぜか大威張りでそう言うラブに、今度はせつなが、ぷっと吹き出す。そしてラブと手をつないだまま、空から落ちてくる雪を眺めた。 今日はクリスマス・イブ。誰かを愛し、誰かに愛されていることを、改めて思い起こし、形や想いで表す日。以前、あゆみにそう教わったことを思い出す。 今まで本当に、いろいろなことがあった。でもこれからもっともっと多くの、様々な出来事が待っているのだろう。 初めてのことに戸惑ったり、哀しい出来事に落ち込んだり、不幸に見舞われて心凍る日もあるだろう。でも、ここには私が愛し、私を愛してくれる沢山の人々がいるから。これまでみんなのお陰で築き上げて来た、幸せの土台が確かにあるから。そして、こうして共に同じものを見つめ、一緒に歩んでゆく友が、隣りにいるから――だから何があっても、私はやっぱり、ここで精一杯頑張って生きていこう。 すぐ下に見える一階の庇が、うっすらと白くなり始めている。 降る雪が、辺りを覆い隠すのではなく、闇に沈む景色にほのかな白い灯りを点してまわっているようだと、せつなは思った。 ~終~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/962.html
夏希◆JIBDaXNP.gの140文字SS【4】 1.【キュアエコー、プリキュア教科書に載る⑪】/夏希◆JIBDaXNP.g その子を送った帰り道、あゆみはあの日のことを話す。 「迷子が泣くのは家に帰れないだけじゃなくて、一人きりが寂しくて、世界と切り離された気がするからなの」 「それ俺もわかるよ。妖精学校でずっと一人ぼっちだったからな」 「僕も……」 グレルとエンエンが頷く。みんな似た者同士だった。 2.【キュアエコー、プリキュア教科書に載る⑫】/夏希◆JIBDaXNP.g 「一人ぼっちだったあゆみと、友達の居なかった俺とエンエン。道を誤りそうになった、迷子だった俺たち」 「普通の子かもしれない。落ちこぼれかもしれない。けど、僕達はもう一人じゃない」 「今は頼りないけど、見守っていてください。みんなの想いを守るために、心を一つにして私たちは戦います」 3.【キュアエコー、プリキュア教科書に載る⑬】/夏希◆JIBDaXNP.g 「で、何と戦うんだよ」 「もう、それは言わないの」 あれから遅くまでパトロールして、またお母さんに叱られた。 「まあ、街が平和なのはいいことだよ」 パジャマに着替えたあゆみが、グレルとエンエンと一緒に布団に潜り込む。 窓の隙間から入る夜風に、書き直したレポートが揺れていた。 4.【「つっ、ついていけない……」(世代間ギャップにタジタジな美希たん)】/夏希◆JIBDaXNP.g 美希「待ちなさい、あなたはそれでもプリキュアなの」 きらら「誰だっけ?」 美希「このっ、先輩の読者モデルよ」 きらら「あ~雑誌の隅でたまに出てる人ね。それで?」 美希「くっ……あなたが戦わなければまた誰かが襲われるのよ?」 きらら「別にあたしのせいじゃないし。邪魔したら倒すけど」 5.【「私、この人苦手です!」(似ているのは名前だけ?)】/夏希◆JIBDaXNP.g うらら「本当にプリキュアしないんですか?」 きらら「だって忙しいもの。面白そうだけど、夢を叶えるためには一人の方が都合がいいわ」 うらら「その気持ちわかります! 私もそう思ってました。だけどのぞみさんと出会って変われたんです」 きらら「それであなたは売れてたの?」 うらら「……」 6.【何もかも無くなればいいのに】/夏希◆JIBDaXNP.g 「スイッチオーバー」 聞き捨てならないキーワード。 声の主は男の子。 ラビリンスの幹部になって学校を壊してやりたかったと、胸の内を明かす。 仕事が忙しくて、健在なのに会えない両親。 孤独な子には授業参観は苦痛で……。 せつなの囁く魔法の言葉で、その子の顔に笑みが戻る。 今度は自分の番だから―― 7.【スイッチオーバー・ビートアップ】/夏希◆JIBDaXNP.g 「ねえ、ラブ。これって」 せつなが偶然見つけた一枚の画像。 「イースとパッションが混じってる?」 「ええ、誰かの悪戯かしら……」 「そうかなぁ、イースが好きなのかも?」 「そんなの変よ!」 「だって、イースって罪じゃなくて、女の子の名前だもの」 人を悪い所から好きになる、それはきっと愛だから。 8.【名残雪】/夏希◆JIBDaXNP.g 春風に乗せられて桜の花が空に舞う。 名残雪。ふと、そんな表現が浮かんだ。 「樹の上では桃色なのに、散ると雪のように白いのね」 黒髪の少女は、小さく囁くと両手を広げた。 雪より眩しい銀の髪が風になびく。 「ごめん、やっぱいい」 隣の少女に抱き竦められる。 「綺麗だけど、雪のように消えそうだもの」 9.「解けない魔法」/夏希◆JIBDaXNP.g 「午前零時の鐘で魔法は解けてしまうの」 「それでどうなったの?」 はーちゃんが絵本の続きを催促する。 「ナシマホウ界の魔法も長くは続かないのね」 とリコがつぶやいた。 みらいは首を振ってラストを読みあげる。 愛の魔法は永久に解けない。 少女と王子が結ばれたように。 みらいとリコが共に在るように。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/320.html
『白鳥のボート』/夏希◆JIBDaXNP.g 桜が散り始める。 四葉町に新緑の季節が訪れる。 いっせいに新芽が吹き出し力強く育つ。 道端では名も無き草花が誇らしげに咲く。 憩いの丘には、シロツメクサの花が絨毯のように広がった。 「はやく~はやく~。美希たん、ブッキー、せつなぁ。こっちこっち~」 休日を利用して、四ツ葉町の公園の外れにピクニックに来ていた。 この季節特有の緑の匂い。生命力に満ちた薫りに誘われるようにラブが駆け出した。 「どの口で言うのかしら……。約束の時間に三十分も遅れたのはラブとせつなじゃない。まったく」 「まあまあ、美希ちゃん。わたしは待つの嫌いじゃないよ。心配するのは嫌だけど、ちゃんと連絡あったし、ね?」 「ごめんなさい。美希、ブッキー。起こして返事あったから安心してたんだけど、寝直してるとは思わなくて……」 以前は、タルトが目覚ましを管理してくれてたんだけど。とせつながこぼす。 いくら正確に鳴って、起きても、それで安心してまた布団に潜っていれば意味は無い。 「もぅ、ラブ。はしゃぎすぎ!」 そう言ってせつなが手を繋ぐ。 ラブが嬉しそうに微笑んで、せつなの手を引くように駆け出した。 あまりに自然な動作に見とれてしまう。 羨ましくなって、祈里はそっと美希の顔をうかがった。美希も同じように祈里を。 クスッと笑いあって、同じように手を繋いだ。 久しぶりに集まったこともあって心が弾む。楽しみで眠れなくて、逆に寝坊しちゃったラブの気持ちも頷ける。 みんなピクニックにもかかわらず、可愛らしくおしゃれもしていた。 ラブは淡いピンクのシャツに赤いジャケット。紺のショートパンツ。躍動感溢れる魅力を放つ。 美希は薄いブルーのタンクトップに、丈の長いレギンスパンツ。細く美しい体のラインが引き立つ。 祈里は黄色を基調にしたオールインワン。ゆったりとした生地にフリルが優しさを際立たせる。 せつなは薄いグレーのワンピースに真っ白なボレロ。白いつば広の帽子。紫のリボン。清楚な佇まい。 初めてラブと出会った時の服にそっくり。ラブとおかあさんのプレゼントだ。 色鮮やかな春の公園にあってなお輝く四つの花。美しい来客の訪れに、春風が包み込むように歓迎した。 タンポポ。スミレ。チューリップ。レンゲ。アケビ。ヤマブキ。ヤマザクラ。 植物にも詳しい祈里が、説明を加えながら散策する。 「色んな種類のお花があるのね。私、精一杯頑張るわ」 「せつなちゃん。そんなに必死に覚えなくていいのよ」 「綺麗ね、確かに。これは負けてられないわ」 「何と競ってるの美希ちゃん……」 「たは~これ可愛い! あっちに黄色くてちっちゃいの咲いてる! あ、そっちは紫のつぼみだ。どんなの咲くのかな」 「ラブちゃんは……。ちょっとだけお話聞いてくれると嬉しいな……」 コースを一巡りしたらお昼になっていた。ラブとせつなの自作のお弁当を広げていく。 蒸し鶏。玉子焼き。色とりどりの野菜たっぷりのサンドイッチ。 そして、おかあさん直伝のフルーツサンド。イチゴとキーウィの酸味。ホイップクリームのまろやかな甘み。 一口食べたら幸せの笑みがこぼれる。 「さっぱりしてて、凄く美味しいわ。さすがはラブとせつなね」 「うぅ。フルーツサンド、凄く美味しい。でも、なんか嫌な思い出があるの」 「ナケワメーケに一緒に挟まれたんだよね。ブッキー」 「爽やかな声で言わないでラブちゃん」 「あの時ね。アタシにとっても楽しい思い出じゃないわね」 「そう、そんなことがあったの。ごめんなさい、ウエスターの仕業ね」 「まあまあ、サンドイッチに罪はないよ。さあ、どんどん食べて!」 「ラブは食べすぎ!」 お腹が一杯になったら、休憩を兼ねてお話した。 話すことはたくさんある。 ラブのダンスレッスンのこと。ソロダンサーとしてより厳しいレッスンを続けている。 美希のモデルデビューのこと。雑誌にも載って大活躍している。学校にあまり通えないのが辛いとか。 ブッキーの勉強が順調なこと。成績だけじゃなく、病院の手伝いでも最近はあてにされているらしい。 そして、せつなのこと。 あれ……。せつなの話題が出ない。どうして……。 ひと休みしたら湖のボートに乗ることにした。 白鳥をモチーフにした美しいボート。ラブはせつなと。美希は祈里とそれぞれ乗り込む。 こぎ手はラブと美希。せつなと祈里は活動的な服を着ていないため、汚さないように慎重に腰をかけた。 「見ててせつな。ダンスで鍛えた体力を!」 「もう、そんなに急がなくてもいいわよ。見て、水鳥が並んで泳いでいるわ」 爽やかな風。青い水面を太陽が照らし、金色の光を放つ。オールがはじき出す水しぶきと水玉が、まるで宝石のように輝く。 「素敵。ほんとうに綺麗よ、ラブ」 「気に入ってもらえてよかったよ、せつな。せつなも凄く綺麗だよ」 「えっ、やだっ! 何言ってるのラブ。恥ずかしいわ」 「たはは、よ~し、飛ばすよせつな。たぁぁ――」 スワンのボートがどんどん加速する。その反対には美希の操るボートが迫ってきていて。 「ラブ! 危ないっ、ぶつかるわっ」 「きゃあぁ! 美希ちゃん衝突する」 『わぁぁ――!!』 ドオォォォ――ン! 「わぁぁ――!」 ラブはがばっと飛び起きた。心臓がバクバク音を立てている。手が汗ばみ、呼吸が乱れている。 「ちょっと、突然飛び起きたらびっくりするじゃない。ラブ」 「大丈夫、ラブちゃん? 嫌な夢でも見たの?」 落ち着いて状況を確認する。ここは……レジャーシートの上だ。洋服も濡れていない。 食べ終わったお弁当箱がまだ出ている。 美希たんとブッキーは食後らしく、ゆったりとくつろいでいる。 そして、せつなは。 せつなは――居ない。 ここには――居ない。 どこにも――居ない。 「本当に大丈夫? ラブちゃんはお昼食べ終わったらそのまま寝ちゃってたんだよ」 「しっかりしなさいよ。って、本当に顔色悪いわよ。ラブ」 「美希たんっ! ブッキーっ! せつなは? せつなはどうしたの?」 「落ち着いてラブ、せつなはここには居ないわ。ラビリンスに戻ったのよ。知ってるでしょ」 「ラブちゃん……せつなちゃんの夢を見たのね」 ここには居ない。どこにも、居ない。 わかってる。そんなのわかってる。 誰より――わかってる。 でも、夢にしてはあまりにも生々しくて。 柔らかい手――温かい体温――優しい声――可愛らしい仕草。 ついさっきまで感じていた――幸せ。 「っ……」 喪失感が心を蝕んでいく。 ぽたり。頬を辿り、涙が一筋零れ落ちた。 一度も、人前では、一度も泣いたことがなかったのに。 とめどなく零れ落ちる。嗚咽も止まらない。 「いな……いの。せつな……が。せつなが……いないよっ」 わっと、ラブが大声で泣き出した。 ずっと、ずっと笑顔で頑張ってきた。せつなの幸せは自分の幸せだから。そう言い聞かせてきた。 でも……寂しいよっ。 やっぱり……さびしいよっ。 せつなに……会いたいよっ。 「泣かないで、ラブちゃん。会えるから! きっと、信じていれば、いつか会えるからっ」 「甘えてるんじゃないわよ、ラブ。せつなはひとりで頑張っているのよ。アタシたちがこんなことでどうするの」 そう言う二人も泣いていた。しばらく三人で抱きあって、声をあげて泣きじゃくった。 バササッ 頭上で鳥の羽ばたく音がした。 ひらり。ひらり。羽が舞い降りてくる。 三人は空を見上げる。 抱き合った状態で見上げる姿は、まるでつぼみが花を開くようだった。 「あたしも、飛べたらいいのにな……」 ポツリ、とラブが呟く。 プリキュアになって、色んな経験を積んで、何でも出来る気になっていた。 でも、本当は非力で、とっても無力で……。今は、小鳥ほどの力もないような気がした。 「飛べるよ。どこにだっていけるよ。どんな願いも叶うって信じてる。だって、ラブちゃんの背中には本当に翼が生えているんだから」 「アタシはせつなの気持ちを知っているもの。せつなはきっと帰ってくるわ。いつか会える。希望を持ち続けていれば、必ず」 鳥の飛び去った方向に湖があった。ボートがいくつか浮かんでいる。 せつなと一緒に、夢で乗ったスワンのボート。 「そうだね。行こう! 美希たん、ブッキー」 ラブは二人の手を取って駆け出した。 そして、心の中で語りかける。 せつな。 あたしね、せつなの夢を見たんだ。 幻でも、嬉しかったよ。 あたしは、あたしたちは、きっと幸せをつかむから。 だから、せつなも必ず幸せになってね。 そして、みんなで夢を叶えたら。 また、いつか会おうね。 心はずっと繋がってるよ。 でも、せつなの全てを感じていたいから。 同じ時間を過ごしたいから。 ラビリンス首都。 中央議会議事堂。復興計画対策本部。 「イース。おいっ、イース起きろ」 「もうじき、君のプランの発表だ。起きたまえ」 「う……ん。――ここは?」 夢だったと……いうの? 不思議なほど現実感のある夢だった。余韻に引きずられる思考を無理やり引き戻す。 このところ徹夜続きだった。とは言え、大切な会議中に居眠りは迂闊だったと恥じる。 「本当に大丈夫なのか?」 「順番を遅らせてもらうかい?」 「ごめんなさい。平気よ」 姿勢を正し、胸を張って壇上に向かう。 「ラビリンスに緑を! そして憩いの場を設けます。私は異世界で見てきました。非効率と思われるもの。無駄と呼ばれるものの中にこそ、幸せが宿ることを。人はひとりでは幸せになれません。そして、人間は人間だけでは、やはり幸せにはなれないと思うのです」 理念と構想。事業と予算。綿密な調査に基づいた具体的な計画が、情熱を持って語られた。 巨大な功績と尊敬。そして現実の体験を伴った説得力のある提案に、会場中から拍手が沸き起こる。 せつなは心の中でそっと語りかけた。 ねえ、ラブ。あなたの夢を見たの。 美希がいて、ブッキーもいて、白鳥のボートに乗ったの。 夢だなんて思えないくらい幸せな時間だった。 心が今でも、ずっと繋がってるからかしらね。 心だけじゃない。夢だって繋がってるわ。 そして、いつか現実も繋げてみせるから。 ラビリンスが四ツ葉町に重なるような世界になったら。 そしたら、きっと、帰るから。 だから、待っててね。ラブ。 私、精一杯がんばるわ。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/453.html
【MOMENT IN LOVE】/恵千果◆EeRc0idolE ラブ 「ねぇねぇせつな、そのTシャツに書いてある英語ってどーゆー意味?」 せつな「え…これは…」 ラブ 「せつな?顔が赤いよ?ねぇどーゆー意味?」 せつな「…MOMENTがせつなで、LOVEがラブで、INが~のなか、つまり…」 ラブ 「クッハー!アタシはせつなで満たされてるってコトだよね!!」 せつな「んもぉラブったら!わかってるなら聞かないで!」
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/113.html
クローバーのダンスレッスンが終わった後にブッキーと図書館へ行ったため、 帰宅がいつもより遅くなってしまったけど、ラブは私を待っていてくれた。 一緒に夕御飯を食べ、食事の後片付けをしていると、隣にいたラブが、 「せつな、話があるの。後であたしの部屋に来てくれる」 「ええ」 ラブの話って何だろう。 関係をやめようということなのかな?でも、私にとっては好都合。 関係を続けようということなのかな?でも、いずれは話さなきゃいけない事。 それが今日だっていうことだけ。 どちらにしても、私には怖いことなんてない。・・・はず。 ブッキーから教えてもらったベストの呼吸をしてみる。 でも、どきどきする。 緊張している私に、 「せつな、今夜は何もしないから。多分、ね」 ラブは苦笑いを浮かべながら、ベッドに腰掛ける。 「せつなもあたしに何か言いたいことあるよね」 あたしの話は長くなると思うから、というラブの言葉で、私は覚悟を決める。 「ラブ、私ね。この関係やめようと思う」 ラブの方を見ると、当然の様に聞いている。もっと取り乱すかと思ったのに。 「たぶん、そう言うと思った。でも、そのせつなの願いは却下」 私が抗議しようとすると、それを制し言葉を続ける。 「ゴメン、その理由も後で言うから。せつなは今、幸せ?」 私が幸せ? 当たり前じゃない。 家族がいて、友達がいて、そして、仲間がいる。 ラビリンスにいた頃では考えられなかったこと。 「勿論よ」 「そっか。でも、今のせつなは幸せには見えない」 私はそんな顔をしているのだろうか。 「あたしの幸せは、大好きな人が笑顔でいてくれること。 あたしの大好きなせつなが笑顔じゃなかったら、あたしだって幸せじゃない」 私はラブを不幸にしないために、身を引こうと思ったのじゃなかった? 「せつなが悩んでいるのは、お父さんとお母さんのこと?」 「ええ」 「前にも言ったと思うけど、今はこのままでいちゃダメかな」 「それに、せつな、今でも悪い夢見てるでしょ」 私が悪夢にうなされていること、ラブが知っているの、どして? 「そんなせつなに、お守り」 ラブが机の中から、鎖のようなものを取り出す。 シルバーのペンダント、先には小さいクローバー。 「あたしがせつなにプレゼントしたいと言ったら、美希たんが一生懸命、仕事の合間に探してくれたんだ。 あたしに買えるものって、予算的にも厳しいし。 それにこれはクローバーが小さいから、いつも身につけていられるしね」 ラブから手渡されたペンダントは、少しひんやりとしていたけど、 プレセントしてくれたラブと、探してくれた美希の温かい心を受け取る。 以前、ラブからもらったクローバーのペンダントとは少し違うけど、私とラブの愛と幸せの結晶。 「ありがとう、ラブ・・・・・ありが・・とう、美希」 「せつな、泣かないで」 ラブの言葉に、なんとか泣き止もうとするが、かえって、涙が次から次へと溢れだす。 「それとね、せつなが一人で図書館に行った日にね、ブッキーからメールがあって、 せつなちゃんと喧嘩したの?だったらラブちゃん、せつなちゃんに謝りなさい、だって」 「喧嘩の内容も聞かないで、だよ。ひどいと思わない、ブッキー」 ラブの大げさな言い方が可笑しくて、私は思わず笑ってしまう。 「よかった。ようやくせつなが笑ってくれた」 「それは冗談だけど。ブッキーから本当にメールがあって。 せつなちゃんが何か悩んでいるから、ラブちゃん力になってあげて、自分ではだめだからって」 「あたし達、いい友達を持ったね」 「うん」 「二人は私達の関係・・」 「知らない・・・と思う。少なくとも、あたしは言ってない」 「そう」 「ラブ、これつけてくれる」 ラブにペンダントを差し出し、後ろを向いて、後ろ髪をかきあげる。 ペンダントをつけたかと思うと、ラブが私の首に顔を埋め、後ろから抱きしめてくる。 その後にきた、確かに湿った感触。 うなじにかかる熱い息に、濡れた部分が敏感に反応する。 「ラブ、今夜は何もしないって」 「あたしだって健全な女子だし」 「健全って・・・」 「それに、多分って付け加えたから」 「えー、そんなの聞いてない」 「上の方見てみて」 「上の方??天井しかないけど?」 「だからー」「何よー」 私の幸せ。 カオルちゃんのドーナツを食べたり、クローバーの仲間達とダンスをしたり、家族みんなの楽しい団欒の時。 だけど、それだけじゃない。 私の一番大好きなラブのそばにいて、 一緒に笑いあったり、怒ったり、喜んだり。同じ時間を共に過ごすこと。 それが、私の一番の幸せ。 了 数時間後のラブとせつな。 「あたしとせつなが出逢ったのって、宿世の縁なのかな」 「宿世の縁?」 「竹取物語のかぐや姫のセリフで、生まれる前から決められていたことっていうか」 「言葉だったら、知っているわよ。私は占い師だったし」 「そっか、そうだったね。せつなは占い師さんだったんだ」 「そういえば、私とラブが初めて会った後にね」 「うん」 「私とラブの未来を占ってみたんだけど」 「うん」 「聞きたい?」 「うん、聞きたい」 「どうしようかな?」 「えー、せつな、教えてよ」 「じゃあ、教えようかな。ずっと離れられない運命だって」 「本当?」 「私がラブに嘘言っても、何も得することないじゃない」 私はその占いの結果を見た時、否定したかった。 敵との関係が続くなど、私がプリキュアを倒せないということではないかと。 だけど、占いが正しかったことが、今なら分かる。 「ラブ、眠くなっちゃった?」 「う・・・ん・・。やっぱり、そうだね。やっぱりあたしとせつなは・・・」 「ラブ、私は恋愛運を占った訳じゃない・・・って、あ、もう眠っちゃった」 私はベッドの上から月を眺める。 ラブの部屋に差し込む月明かりは、いつもより温かい光に感じられた。 月がその時、私に教えてくれた気がした。 明けない夜がないように、私達にもいつか必ず春は来るのだと。 SABI9最終章へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/190.html
四つ葉になるとき ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode5:笑顔の種 この世界の人間を見て、最初に驚いたもの――それは、笑顔だった。 お母さんの顔を見上げる、小さな子供の笑顔。 その笑顔にやさしく答える、お母さんの笑顔。 友達同士の賑やかな笑い声や、静かに微笑み合う老夫婦。 ラビリンスでも、人々は感情の表現が皆無だったわけじゃない。 でも、あんな花が咲いたような明るい表情を見たのは、初めてだった。 人はこんな美しい表情ができるのかと、 そこかしこで溢れる笑顔を眺めながら、密かに思った。 やがて驚きが治まると、今度は苛立ちを感じ始めた。 その美しい表情が私に向けられることなど、あろうはずがなかったから。 そして、その笑顔の花を奪い、壊すのが、他ならぬ私の任務だったから。 もっとも、あの頃の私には、どうして笑顔を見ると虫唾が走るのか、 その理由なんて、まるで分らなかったけれど。 ラブに出会って、笑顔を向けられる嬉しさとあたたかさを知った。 プリキュアになって、笑顔を守ることができる喜びを知った。 おじさまやおばさまの笑顔。美希やブッキーの笑顔。タルトやシフォンの笑顔。 たくさんの笑顔に囲まれて、自分も笑顔になれるのだということを知った。 ぬくもりというものを覚えた心に、湧きあがったひとつの想い。 私も、誰かを笑顔にしたい。 ラブのように。おばさまやおじさまのように。美希やブッキーのように。 そのためには、どうすればいいのだろう。 笑顔が表情の花ならば、その種は、一体どこにあるんだろう。 天井の一部が欠け落ちた、クローバーフェスティバルのイベント会場。 袖と呼ばれる舞台の陰で、波のように押し寄せるたくさんの笑い声を聞きながら 私はそのことばかりを考え続けていた。 四つ葉になるとき ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode5:笑顔の種 「はぁ~~~~!!」 ピーチの気合いのこもった声と共に、ナケワメーケを包み込む光が輝きを増していく。 「シュワ、シュワ~・・・」 断末魔の・・・というより、何だかホッとしたような声が聞こえて、緑色のダイヤが煙のように消失する。あとには四つ葉写真館の、古いけれど店主自慢のカメラが、ぽつんと道端に残された。 サウラーが、忌々しげに何事か呟いて姿を消す。それを見届けてから、四人の少女は変身を解いた。 「みんな、ありがとう。」 ラブは、仲間たちに向き直って、少し照れ臭そうに笑った。 「みんながあたしのこと、帰って来るって信じてくれたから、帰って来られた。ホントにありがとう!」 「何言ってるのよ。あったり前でしょう?」 腕組みした美希が、にっこりと笑ってそう言い放つ。 「うん。わたし、信じてた。せつなちゃんも、そうだよね?」 穏やかに微笑みかける祈里に、ええ、と頷いて、 「ラブなら絶対、帰って来てくれるって思ってたわ。」 まっすぐにラブの目を見つめて、せつなは嬉しそうに言った。 ラブの笑顔が大きくなる。 カメラのナケワメーケの攻撃で、ラブは思い出の世界に送られた。 おじいちゃんと過ごした幼い頃の、穏やかで、無邪気で、何の心配もなかった幸せな日々――そんな甘美な夢の中から帰って来られたのは、おじいちゃんが、自分のやるべきことを思い出させてくれたから。そして、自分の帰りを信じて戦う、三人の仲間の姿を見たからだ。これはおそらく、シフォンが見せてくれたのだろう。 「そうだね。もし、あたしじゃなくて他の誰かが思い出の世界に行っても、あたしもきっと信じてたと思うもの。」 それを聞いて、祈里が震える溜息を、わずかに漏らす。さっきはすんでのところでラブに助けられたが、三人とも危ないところだったのだ。 「どんな思い出の中に閉じ込められたのかなって考えたら、少し怖いけど。」 「そう?アタシはちょっと、見てみたかったな。」 強気な美希の言葉に、思わず顔を上げる祈里。パチリと片目をつむってみせるおどけた顔が、よみがえった恐怖を薄れさせてくれた。 「もう、美希ちゃんたら。さっきは一緒に怖がってたくせに。」 笑い合う二人を、せつなが笑顔で見守る。その顔に一瞬だけ暗い影が浮かんだのを、ラブだけは見逃さなかった。 ☆ 「えーっと、ひき肉と卵、タマネギに牛乳、と。パン粉は、まだあったし。あ!お母さんに、また付け合わせを決められたら大変だ。ええと・・・付け合わせ、ブロッコリーでいいよね?せつな。」 ラブが慣れた手つきで、スーパーのカゴに食材を放り込む。せつなはその後を付いて行きながら、視線を上げて、どこかのレジを担当しているはずのあゆみの姿を探した。 「ええ、いいわよ。・・・あ、ラブ。いちばん右のレジに、おばさまがいるわ。」 「そうそう、お母さんはいつもここなんだよ。」 「あ・・・なんだ、場所が決まってるのね。」 少しだけ悔しそうなせつなの顔を見て、ラブはやけに嬉しそうに、ンフフ~と笑った。 四つ葉写真館にカメラを届けに行ってから、美希と祈里と別れての帰り道。二人は夕食の買い物にやって来ていた。 今日はあゆみが遅番なので、ラブが夕食当番だ。昨日、それを聞いたせつなが、自分にも料理を教えてほしいと、ラブに頼んだのだった。 「ラブの作る料理も、おばさまやおじさまが作る料理も、凄く美味しいから・・・。もしも、私の料理を誰かが食べてくれて、美味しいって笑顔になってくれたら、こんな嬉しいことないって思って・・・。」 うつむき加減で、でも笑みを浮かべながらそう口にするせつなに、ラブは「わっはー!」と歓声を上げて抱きついた。 「もっちろん、バッチリ教えちゃうよぉ。じゃあ、まずはやっぱり、ラブちゃん特製・激うまハンバーグ!明日の晩ご飯は、決まりだねっ!」 「ラブ・・・。確かこの前の夕食当番のときも、ハンバーグじゃなかった?」 「いーのいーの、美味しいんだから。じゃあ、一緒にせつなのエプロンも買いに行っちゃおう!あ、あたしのエプロンも、お揃いで新しいの買っちゃおうかな~。」 これが、昨日の晩の話だ。 「おか~あさん。」 「あら。」 聞き慣れた声に、レジに立つあゆみが顔を上げる。目の前には、どうやらいつも以上に張り切っているらしいラブと、自分を見つめて嬉しそうに微笑むせつな。二人とも同じように、瞳がキラキラと輝いている。 (何だかだんだん、本当の姉妹みたいになってきたわね。) フッと相好を崩したあゆみに、ラブが怪訝そうな顔をした。 「ん?お母さん、何ニヤニヤしてるの?」 「え?そんなことないわよ。」 あゆみは慌てて、ピッ、ピッ、と食材をひとつひとつレジに通し始める。 「今日は、二人で晩ご飯作ってくれるんだったわね。ありがとう。それにしても・・・またハンバーグなの?ラブ。」 「だってぇ、せつなと初めて作る料理なんだよ?だったらやっぱり、ハンバーグでなくちゃあ。」 「はいはい、しょうがないわねぇ。じゃあ、付け合わせは・・・」 「はい、これ!今日はブロッコリーね。何なら、ホウレンソウでもいいんだけどぉ?」 「ぐ・・・わ、わかったわよ。」 「クスッ、フフフ・・・」 ラブとあゆみの掛け合いに、せつなは堪らず、口に手を当ててクスクスと笑い出す。が、次に聞こえてきたあゆみの言葉で、笑い声はどこかに引っ込んでしまった。 「コホン。今日は特別よ。せっちゃんが初めて晩ご飯を作ってくれる日に免じて、許します。せっちゃんには、私がおいし~いニンジン料理、教えてあげるからね。」 「え~、ニンジン料理なんか・・・って、お母さん!『せっちゃん』って、せつなのことだよねっ?」 ラブがレジの上に身を乗り出す。 「ええ。」 あゆみが少し頬を染めて、ニコリと微笑む。そして、ラブの隣りでポカンとしているせつなの顔を、やさしく覗き込んだ。 「・・・そう、呼んでもいいかしら。」 見る見る真っ赤になった顔を隠すように、せつながコクンと頷く。 ピッ。 カゴに残ったブロッコリーをレジに通すと、あゆみは目の前の黒髪を、愛おしげに、そっと撫でた。 ☆ スーパーからの帰り道。今朝の続きで、ラブはクローバータウンストリートのお店を、一軒ずつ、せつなに紹介しながら歩いていく。が、今朝のように足を止めてお店に立ち寄ることはしなかった。 食材を持っての帰り道だから、ということは勿論ある。でもそれ以上に、せつなが何だか、心ここにあらずといった様子に見えたからだ。 沈んだり、考え込んだりしているわけではない。今のせつなは、何だかふわふわしていて、まるで地に足がついていないように、ラブの目には映った。 「ねえ、せつな。」 ラブはとうとう立ち止まると、街路樹の緑をニコニコと眺めているせつなの顔を覗き込んだ。 「ん?なぁに?ラブ。」 そう言ってラブに向き直ったせつなの顔は、今にも笑い出しそうな、それでいて泣き出しそうな顔に見える。 「どうしたの?何だか様子がヘンだよ?さっきからずっと黙りこくって、あたしの話も耳に入ってないみたいじゃない。」 「あ、ごめんなさい。」 せつなは少し申し訳なさそうな顔をして、自分の足先に視線を向けた。 「ねえ、ラブ。」 そのままラブの顔を見ずに、せつなは言葉を繋ぐ。 「さっき、ブッキーと美希が、思い出の世界の話をしていたときにね。私、自分には帰って来られなくなるような楽しい思い出なんて無いって、そう思ってたの。」 さっきの、せつなの顔に一瞬だけど確かに浮かんだ影を思い出して、ラブは心配そうな顔になる。 「でもね。」 せつなはそう言って立ち止まると、ラブの顔を見て、少し照れ臭そうな表情を見せた。 「思い出とは呼ばないんだろうけど、もしも、今この瞬間に・・・この時間の中に閉じ込められたら、私、きっと帰れないんじゃないかって思う。」 「せつな。」 うるんだ瞳をせつなに見られまいと、ラブは顔をそむけて、手に持った買い物袋をヨイショとゆすり上げる。 せつなの幼い頃の話を、ラブは詳しくは聞いたことがない。でも、一緒に住んでいれば、そしてずっと一緒にいれば、少しずつ分かってくることもある。 せつなの戻りたい時間――今までの人生の中で一番幸せな時間が、まさに今この時だという彼女の告白は、ラブにはしみじみと嬉しくて、そして胸が締め付けられるように、哀しかった。 「やだなぁ。今で良いんなら、別に閉じこもる必要なんてないじゃん。」 おどけたようにそう言うと、ラブは足元にあった電柱の影を、ぴょんと跳び越える。 「やっぱり・・・ヘン?」 少し不安そうな顔をするせつなに、ラブはシフォンの真似をして、ぶぅっと頬を膨らませてみせた。 「ヘンだよぉ。だってせつな、これからの方が、もっともっと楽しくなるんだよ?こんなところで立ち止まってちゃ、つまんないよ。」 ラブのふくれっ面がせつなに迫って、パッとその右手を掴む。同時にいつもの笑顔に戻ったラブは、キラリとその瞳を光らせると、いきなり駆け出した。 「だからさ。まずは美味しいハンバーグ作って、みんなで楽しく晩ご飯食べよっ!」 「わかったわ。」 ラブに手を引っ張られながら商店街を走るせつなの顔は、何だか幼い子供のようにあどけなくて、とても嬉しそうだった。 ☆ その日の桃園家の夕食は、ラブとせつなが作ったハンバーグとサラダ、会社から早めに帰って来た圭太郎が作った肉じゃが、それにあゆみが買ってきたデザートのアイスクリームという、実に豪華で賑やかなものとなった。 ぱくりとハンバーグを頬張るあゆみと圭太郎の顔を、せつなは心配そうに見守る。 「うん!とっても美味しいわよ。」 「ん~、幸せだなぁ。」 パッと笑顔になった二人に、せつなもホッとしたように、心から嬉しそうな顔を見せる。 「やったね、せつな!」 ラブがせつなを肘でつついて、二人はアハハ・・・と声を上げて笑った。 「このキャベツも、せっちゃんが切ったのかい?上手だなぁ。ハンバーグもサラダも美味しいし、きっとすぐにラブに負けない料理上手になるぞ。」 圭太郎にも『せっちゃん』と呼ばれて、せつなは微笑みながら頬を染める。きっと両親の間では、せつなのことは少し前から『せっちゃん』と呼んでいたんだろう。ラブはそのことに胸を熱くしながら、 「お父さんってば。料理は勝ち負けじゃないでしょう?」 と、口を尖らせてみせた。 「ハハハ・・・。そうだな。じゃあ、ラブと同じような料理上手、って言っておくか。」 上機嫌な圭太郎を横目で見ながら、あゆみは楽しそうにサラダを口に運ぶ。と、何か言いたげな表情のせつなと、目が合った。 「ん?せっちゃん、どうかした?」 あゆみの言葉に背中を押されたように、せつなが少しはにかみながら、口を開く。 「あの・・・。今日、ラブが・・・おじいさんの夢を見たって、話してくれて。」 「せつな!」 ラブが、口に入れたばかりのハンバーグのカケラを、ゴクリと飲み込む。もっとも、慌てたのはラブだけで、あゆみも圭太郎も、へぇ~、と言った様子でラブを見つめた。 「ねっ、どんな夢見たの?ラブ。」 「べ、別に、大した夢じゃないよ。あたしはまだちっちゃくて、表で遊んでたら、おじいちゃんが探しに来てくれて。それから・・・おじいちゃんがお仕事するところを見たり、駄菓子屋さんで水飴買ってもらったり・・・えっと、そんな感じ。」 「お義父さんは、ラブのことをそれは可愛がっていたからなぁ。」 圭太郎が懐かしそうに呟いて、ビールをこくっと一口飲む。その言葉を聞いて、ラブの顔からやっと焦りの色が消えた。上がり気味だった肩が、すっと下がる。 「あたしも、まだ小さかったから、おじいちゃんのことあんまり覚えてなくて。だから、夢・・・のお陰で色々思い出せて、今日は嬉しかったんだ。」 「そう。いい夢が見られて良かったわね。」 そう言ってから、あゆみはちょっと不思議そうに、ラブに尋ねた。 「今日は、って言ったけど・・・。ラブ、あなたその夢、一体いつ見たの?今日、どこかで昼寝でもした?」 「へっ?あ、い、いやぁ。今日って、け、今朝の話だよ。だから正確には、昨日の夜か、アハハ・・・。朝ご飯のとき、話そうと思って忘れてたんだ。で、その後せつなに話したんだよね。ねっ、せつな。」 「ええ、そうね。」 また慌てているラブの様子に、せつなが笑いを堪えて相槌を打つ。その顔を見て、不思議そうだったあゆみの顔が、ちょっと緩んだ。 「ずいぶん嬉しそうね、せっちゃん。」 「え?ええ。おじいさんの話って初めて聞いたから、どんな人だったのかなぁと思って。」 それを聞いて、あゆみは遠いところを見ているような、少し寂しげで、でもとても穏やかな顔つきになった。 「仕事に対しては頑固なくらい妥協しない人だったけど、家族や町の人には、とてもやさしい人だったの。畳屋なんて、子供にはまるで縁のない店なのに、『畳屋のおじいちゃん』って、近所の子供たちにも人気があったわ。」 「へぇ・・・。素敵な人だったんですね。」 せつなにそう言われて、あゆみは心から嬉しそうな笑顔を見せる。 おじいちゃんの思い出話。ラブの幼い頃の話。あゆみの学生時代の話・・・。 あゆみと圭太郎を中心に、あんなことがあった、こんなことがあったと、食卓に、楽しい昔話の花が咲いた。 やがて食事が終わり、デザートのアイスクリームを食べているとき、せつながふいに圭太郎に尋ねた。 「あの・・・おじさまは、タタミ屋さんじゃないんですよね?あの、お仕事って・・・。」 「ああ、僕の仕事かい?」 圭太郎の目が、キラリと輝く。 「僕はね、カツラメーカーの社員なんだよ。軽くて、通気性があって、水にも強くて・・・付けた人や動物を幸せにするカツラを、日々追求しているんだ!」 あちゃ~、という表情のラブにはお構いなしに、圭太郎は身を乗り出し、アイスが溶けそうな勢いで語り出す。 「・・・カツラ?」 「おっ、せっちゃんは見たことがないか。よぉし、今持ってくるから、ちょっと待ってるんだぞ。」 「お、お父さん!別に持って来なくてもいいよぉ。」 勇んでリビングを出ていく圭太郎を、ラブが慌てて追いかける。残されたあゆみとせつなは、顔を見合わせてクスリと笑うと、食べ終わった食器を重ねて、二人で台所に運んだ。 「あの、おばさま。」 せつなが食器を流しに置いて、あゆみに話しかける。 「ラブの名前って、おじいさんが付けてくれたんですってね。将来、愛情を込めて、何かを成し遂げる子になって欲しいって。」 「あらあら。ラブったら、そんなことまで夢に見たの?」 スポンジでくるくると食器に洗剤を付けながら、あゆみは呆れたような声を出した。 「そうだったわねえ。ラブが生まれたとき、名前はお義父さんに付けてもらうんだって、あの人が頑固に言い張ってね。」 あゆみはそう言いながら、リビングの入り口をちらりと見やる。まだ二人で揉めているのか、圭太郎もラブも、まだ戻ってきてはいなかった。 「それでお父さん、ずいぶん考えたみたいよ。最初に『ラブ』って聞いたときは、ちょっとびっくりしちゃったけど、今思えば・・・案外、お父さんらしいかもね。」 「凄く大きくて、たくさんの想いが込められた名前なのね。とっても素敵。」 最後は小声になってそう呟くせつなの横顔をじっと見つめてから、あゆみは静かに言った。 「ねえ、せっちゃん。ラブがせっちゃんのこと、『せつな』って呼ぶときの顔、私、とても好きなの。どうしてかわかる?」 「え?」 怪訝そうに小首をかしげるせつなに、あゆみはゆっくりと言葉を繋ぐ。 「そのときのラブの顔がね。いつもとっても嬉しそうで、やさしい顔をしてるから。せっちゃんがラブを呼ぶときも、おんなじ顔してるけど。」 少し上気していたせつなの顔が、今度ははっきりと、朱に染まった。 「名前ってね。付けられるときにも、その人へのいろんな夢や想いが込められるけど、本当はその人と一緒に、育っていくものだと思うのよ。」 「名前が・・・育っていく?」 「そう。」 せつなは食器を拭く手を止めて、真剣な顔であゆみを見つめた。あゆみも微笑みながら、せつなを見つめ返す。 「家族や友達から親しみを込めて呼ばれたり、今日せっちゃんがお父さんのこと訊いたみたいに、誰かにどんな人?って訊かれたり。それから、精一杯がんばったことが感謝されて、名前を覚えてもらったりしながら、ね。 せっちゃんとラブが、いろんなことを経験して大人になっていくのと一緒に、二人の名前も周りの人たちの間で、あったかかったり、やさしかったり、頼りがいがあったり、いろーんなイメージを持つ名前に育っていくんだって、私は思うわ。」 せつなの目が、薄い涙の膜の向こうで小さく揺らいだ。昼間のときのようにコクンと頷くと、せつなはそのまま洗いかごの方へ向き直る。布巾をぎゅっと握って、一心に食器を拭く彼女を、あゆみはラブによく似たまなざしで、じっと見つめた。 水道の水の流れる音が、自分の心臓の音に重なって聞こえるような気がする。せつなは湯飲みの縁を布巾でくるりと撫でながら、さっきハンバーグを食べて笑顔になってくれた、あゆみと圭太郎の顔を思い出していた。 美味しい料理を作って、みんなに笑顔になってもらいたい。そう思って、ラブに料理を教えて欲しいと頼んだ。 ラブが大好きだったおじいさん――だからきっと、あゆみも圭太郎も大好きだったはずのおじいさんの話をしたら、きっとみんなが笑顔になってくれるんじゃないかと思った。 その結果は、思った通りだったような、そうではなかったような・・・正確には、思った以上のことが起こったと、せつなは密かに驚いていたのだ。 ハンバーグを食べたあゆみと圭太郎の笑顔を見たとき、嬉しくて嬉しくて、自分が自然に笑顔になっているのに気付いた。そして、そんな自分の顔を見て、ラブもとびっきりの笑顔を見せてくれた。 おじいさんの話だって、みんなとても懐かしそうに、嬉しそうに話していたけれど、普段は聞けない昔の話を色々聞けて、嬉しかったのは自分の方だった。 笑顔の種は、実は誰もが持っていて、花を咲かせるための水が、美味しい料理だったり、楽しいお話だったりするのかもしれないと、さっきまでは思っていた。でも、どうやらそれだけでは無さそうだ。 笑顔は別の笑顔を生んで、その笑顔がまた笑顔を生む。季節になれば花が次々と咲いていくように、笑顔は笑顔の隣りから、どんどん広がって行く。 もしかしたら、その輪の中に入れれば・・・その輪の中に入って、自分自身が笑顔になれれば、私も誰かを笑顔に出来るのかもしれない。そうしたら、ラブのように想いを込めて付けられたわけではないこの名前も、ラブのようなあったかい名前に、いつかは育っていけるのかもしれない。 せつなはそんなことを思いながら、隣で食器を洗っているあゆみの顔を見上げて、もう一度ニッコリと笑った。 リビングに戻ってきたラブは、台所であゆみと楽しそうに話しているせつなを見て、静かに微笑んだ。 (よかったね、せつな。せっちゃん、って呼ばれて、すんごく嬉しかったんだよね。) あのときのせつなの顔に、一瞬だけ浮かんだ暗い影。今この瞬間に閉じ込められたら、帰れないんじゃないかと言った、せつなの顔。そして・・・。 ――苦い思い出になってしまった。 そう言って去っていったサウラーの後ろ姿を、ラブは思い出していた。 プリキュアを全員眠らせて、思い出の世界に閉じ込めてしまえば、いくらでも不幸が集められる。サウラーは、そう言ったらしい。でも、サウラーがせつなの子供時代を・・・閉じ込められるような思い出なんか無かったという子供時代を、知らないとは思えない。それに。 ――なぜだ!なぜ思い出の世界から、帰って来た!? ナケワメーケの攻撃を間一髪で防いだときの、サウラーの叫び。あのときの叫びに、自分の作戦が失敗したことへの苛立ちだけではない、何か寂しさのようなものが混じっているのを、ラブは感じていた。 (もしかしたら・・・。) サウラーの作戦には、本当は別の目的があったんじゃないのか。せつな以外のプリキュア三人を眠らせて、一人になったせつなを取り戻すという、そんな隠された目的が。 もちろん、そんなやり方は間違っている。でも、もしかしたら今日の作戦は、せつなのことをまだ仲間だと――かけがえのない仲間だと思っているからこそ、サウラーが知恵を絞った作戦だったのかもしれない。考えれば考えるほど、ラブはそんな気がしてならなかった。 「ほ~ら、持って来たぞぉ。ラブがうるさいから厳選に厳選を重ねたけど・・・三つくらいなら、いいよな?」 両手にカツラのサンプルを抱えた圭太郎が、満面の笑みでリビングに入ってくる。そのいかにも嬉しそうな、誇らしげな顔を見ているうちに、ラブの胸にも、静かな闘志が湧き上がってきた。 (そうだよ!あたしとせつなと、お父さんとお母さんと、美希たんとブッキーと・・・みーんな、ちゃあんと繋がったんだもの。いつかきっと、あの人たちとも、みんなで幸せゲットできるはず!) 「お父さぁん。そんなに持って来て、まさかせつなに、カツラのモデルやれって言うんじゃないでしょうね?」 ラブは圭太郎にそう言って、台所から出てきたせつなに、ニコッと笑いかける。 「え~っ!これでも、厳選したんだぞぉ。」 悲鳴を上げる圭太郎を、笑いを含んだ目で睨んでから、ラブはサンプルが汚れないように、急いでテーブルの上を拭き始めた。 ~終~ ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode6:タルト、またまた危機一髪!?(前編)へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/684.html
「すべて雪のせい」/ねぎぼう 桃園家にあるテレビが冬の情景を映し出していた。 「空から降ってる白いの、何かしら?」 「これは雪だよ」 (あの日と同じ!?) 「きれいだね、せつな」 「そ、そうね」 テレビが映し出す銀世界は美しいものであった。 しかし、せつなにとってはあの日を想起させるものであった。 「あ、いけなーい! そろそろ夕ご飯の支度しなきゃ! 今夜はあったかいもの、つくろっか? せつなも手伝って」 「……ええ」 (今は帰ってくる両親のために暖かい料理を作ることに気持ちを集中しよう) そう思い直して、ラブと台所に向かった。 ***** 数日後。 昼食が終わってすぐにこたつに潜り込んだラブにせつなが声をかけた。 「ちょっと本屋さんに行ってくるわ。すぐ帰るから」 「んにゃ」 ぬくぬく省エネモードに入ったラブを後目に、せつなは軽く服を羽織って、近所の本屋に向かった。 ***** 「せつなちゃん、取り寄せてた本が来てるよ」 「ありがとうございます」 ダンスの本を買って以来、本屋のおじさんとはすっかり顔馴染みであった。 今時は皆大型書店やアマゾネスで買うご時世であるが、せつなはこの店で取り寄せを頼むことも一度や二度ではなかった。 ふと参考書のコーナーに目をやると、一冊の背表紙が目に入った。 (『リズムで覚える英単語』?) 英語の小テストを前に「単語が覚えられない~」とちょくちょく泣き言を漏らしていたラブの顔がうかんだ。 英語の苦手なラブもダンスで培ったリズム感を応用できるのなら…… その本に手を伸ばそうとすると、もう一人いた女学生と思しき客もすっと手を伸ばしてその本を手に取った。 せつなの手の動きと当惑した表情に気付いてか、 「あなたもこの本を?」 「い、いいえ……どうぞ」 「ごめんなさいね」 ぱらぱらとめくって、内容をリズミカルにつぶやく。 「うん、これなら覚えられそうね」 勘定を済ませてその女学生は帰っていった。 「……すみません。さっきの人が買って行かれた本はまだありますか?」 「せつなちゃん、ごめんね。あれが最後なんだよ」 「そうですか……」 本屋のおじさんは残念さを隠しきれないせつなの顔を見て、 「街の大きな書店か、それか古本屋ならあるかもしれないねえ」 「ありがとうございます」 まだ時間は早い。 (とりあえず、街に行こう) キャリーからリンクルンを取り出して、思い直したように戻す。 タルト達はスウィーツ王国に帰還したあとも、アカルンはせつなのそばにいる。 しかし、それはせつなの命を支える故。瞬間移動の能力を濫りに使うことは避けるようにしていた。 そのまま駅へと歩いていき、電車で市街に向かった。 (ちょっと遠出になったかしら。駅の近くに大きな書店があるからそこで買って早く帰ろう) ところが、駅の近くにある大きな書店でも『続・リズムで覚える英単語』はあったが、『リズムで覚える英単語』が見つからなかった。 (『続』はあるのに、どして?) 本編なしでいきなり『続編』というのはちょっと気が引ける。 (街には他にも本屋さんがいくつかあるってブッキーも言ってたわね) せつなは他の本屋を当たってみようと考えた。 大通りを見渡すと何軒かの書店があるのがわかった。 そうして見つけた書店を1軒1軒廻ったものの、見つからないか、あっても続編だけという有様だった。 気がつくと駅からはずいぶん離れたところにいるようだ。 さらに目をこらすと、市街のはずれにあたるような場所に「ブックスオフ」を見つけた。 (もうここでなければ……) もともとちょっと外に出るつもりの軽装だったため、些か寒い。 それでも、本を見つけたいという気持ちが寒さをカバーしてきた。 その本屋に入って、参考書棚を見ると『リズムで覚える英単語』の文字が…… (あったわ!) 本を取り、ページをめくる。 (これならいいわね) 会計を済ませて外を見ると雪が降り始めていた。 (そういえば、天気予報で今日は雪が降るって言っていたわね) 雪を見るとあの日を思い出す。 暖かくも、つらい記憶。 二度とは繰り返したくない…… (ブルルル……) リンクルンが振動している。ラブからのメールであった。 (いけない、ラブにはすぐ帰るって言ってたんだわ) さすがにここはアカルンの力ですぐに帰ろうと思ったが、間が悪いことに本屋には雨宿りならぬ雪宿りの客が増えていたため、この場はメールを入れておくことにした。 ***** 一方こたつでうたた寝をしてしまっていたラブが目を覚ました。 時計を見ると4時を過ぎていた。 まだせつなは帰ってきていないようだ。 「それにしてもせつな、少し遅いなあ」 窓の外に雪が降るのが見えた。 リンクルンにメールを入れる。 From 桃園ラブ To 東せつな Subject まだ本屋さん? 雪が降ってきたよ! 「送信、っと!」 (今日も本屋のおじさんと長話かな??) ~♪♪♪ 「あ、返信だ!」 From 東せつな To 桃園ラブ Subject Re まだ本屋さん? 街のブックスオフにいます。もうすぐ帰るわ。 ラブは思わぬ回答に驚く。 「街のブックスオフって…… 本屋さんじゃなかったの?」 出かけるときのせつなはそんなに着込んでいなかったから…… あわてて通話モードにする。 「せつな! 今迎えに行くから、そこで待っていて! 絶対そこから出ちゃだめだからね、風邪ひいちゃうから!」 「ラブ、ちょっと……(プツッ)」 どうやらラブは街に向かっているらしい。 アカルンによる瞬間移動の能力は定点に対してであり、どの地点にいるかわからないラブのところには移動できない。 なまじの場所に移動しても、行き違いになる可能性が高い。 (やはりここで待つしかないわね) ***** 「せつなー!」 ブックスオフにラブが現れた。 「ラブ!」 髪や服にも雪がついていた。 「びっくりしたよ! 今日は寒いのにこんな薄着で街に出ているんだもん」 「ごめんなさい……」 「さ、帰ろ?」 「私のコートだけ持ってきてるの、どして?」 ラブの手には茶色のコートと傘があったが、ラブ自身はノースリーブのピンクのジャケットを羽織っただけだった。 「たっはー、あわててたからねー。くしゅん!」 「ラブ、このコート着て」 「ダメだよ。せつなが風邪ひいちゃう」 「だからって……わかったわ! アカルン!」 「キー!」 せつなは赤い光に包まれ、再び現れた時にピンクのコートを持っていた。 「ラブもちゃんとコート着てこなきゃ」 「ありがと」 雪にまみれたラブの姿にせつなは少し冷静ではなくなっていたようである。 あらためて、ラブが持ってきたピンクの傘を広げ、ブックスオフを後にする。 「で、せつな。本屋さんで何を探してたの?」 「これよ」 「え!?」 雪がかからないようにちらっと表紙をみせた。 「これで英単語もマスターして、幸せゲットね?」 「……精いっぱい、頑張ります」 雪が少しずつ強くなっていく。 ラブはせつなが傘の下になるような持ち方をしており、自身は右肩のみならず頭にまでもうっすらと雪がかかっていた。 そんな様子を見たせつなは、 「ラブに傘が全然かかっていないわ」 「それなら、こうして……」 左腕でせつなを引き寄せるようにし、二人がかなり密着した状態で傘に入ることになった。 「これって、温かくていいね」 「もう……」 傘も白く染まっていくにつれ、せつなの瞳は次第に暗くなっていく。 「あの時も、雪、降っていたわね」 せつなにとっての雪の記憶。 それは、シフォンを取り戻すためにラビリンスに出発したクリスマスイブの夜。 積雪地帯とは言えない四つ葉町で生まれ育ったラブにとっては、童謡や憧れに近い楽しい遊び、ホワイトクリスマスなど、好ましいものとしての記憶されている雪が、せつなにとってはあの日につながってしまう。 (せつな、あの日初めて雪を見たんだ……) ***** 駅の近くにさしかかると、偶然にも街頭インタビューの取材クルーが二人の前にやってきた。 この日は関東全体が大雪になりそうということで、地元のTV局でも取材・収録をしていたのであった。 決して大きいとは言えない傘に美少女の部類であろう二人がかなり身を寄せて入っていた。そんな二人を見た取材クルーが、絵になると感じて声をかけたのであろう。 「インタビューよろしいですか!」 「えーっ!」 テレビとかではインタビューのシーンを見ていたが、いざ自分が受ける立場になるとさすがに当惑するラブ。 インタビューそのものを知らないせつなに至っては何が起こっているかすらわからなかった。 ただ、腹をくくると、持ち前の度胸の良さを見せるのがラブである。 世間話のようなやり取りの後、 「近年では珍しいくらいの大雪ですが、どうですか?」 かつてのキュアピーチに重なるような凛々しい横顔がせつなの目に映った。 「恋人といる時の雪って特別な気分に浸れてあたしは好きです」 (恋人って……!?) そういうと、せつなを一層引き寄せるように腕に力を入れた。 (や、やだ……ラブったら!) せつなは真っ赤になった顔を手で覆うのであった。 * この後、雪のために電車がずいぶん遅れ、クローバータウンストリートに戻るのに夜遅くになってしまった。 「帰ったらお説教確定だね」 「ええ、甘んじて受けるわ」 「これもすべて雪のせい、なんだよ」 「雪のせい、ね」 そういうと、せつなはふふふっと笑い出した。 「どうしたの?」 「雪って困ったこともあるけど、暖かい気持ちになったり、不思議ね」 「よかった、せつながそう思えて」 相変わらず降り続ける雪に負けないように、更に身を寄せて家路を急ぐ二人。 寒いのに不思議と暖かい傘の下。